信越五岳トレイルランニングレースレポート2

<レース展開の続き>
第3エイドは妙高の関川沿いにある。この時、よほど険しい顔をしていたのか、大会プロデューサーの石川さんから「笑顔笑顔。楽しんで!」と声をかけてもらった。そこから長い長い関川沿いの砂利道をひたすらと進んでゆく。疲れを感じる。視界が蛍光灯のようにチカチカして見える。110kmの半分にも満たない距離とはいえ、ここまでフルマラソンほどの距離を走ってきている。体にあまり余裕はない。この区間の途中でペーサーの山室が応援してくれたが、辛そうな姿を見せてしまった。関川沿いの砂利道を終えると、黒姫山の北側を取り巻く信濃自然歩道へと進んでゆく。体は重くなってきていたが、一歩一歩進むと、緩い下り坂になった。ここは気持ちよく走れる区間。ここまで体が辛い状態になってきていたが、この下りでだんだんリズムを取り戻してきた。
そして第4エイドの黒姫高原スキー場の駐車場に到着。ここで水を補給し、グミをほおばる。仲間が応援してくれて、元気が出る。ここから先はだらだらと登る林道が6km以上続く。忍耐力が必要な区間だ。決して速いペースではないが、自分のリズムで修行のように走り続ける。すると1人の選手をパスすることができた。林道を登りきると、西野発電所への下り坂となる。発電所からは笹ヶ峰に向けてつづら折れの急登だ。ここは無理せずに一歩一歩、歩く。つづら折れを登りきると、森の中を抜け、牧場を経て第5エイド乙見湖となる。この森の中ですごい勢いで後ろから迫る選手が。相馬選手だった。全くスピードが違ったので、ただただ見送るだけだった。その後、牧場で1人の選手をかわした。また、後ろから来た選手にも追いつかれた。その選手と会話をしながら第5エイドに到着した。
第5エイドではペーサーの山室が待っていてくれた。水を補給し、エイドのグミを食べ、先へと進んだ。この時点で元気よく走っていくことはできなかったが、ある程度のスピードで走り続けることはできる。山室の情報ではトップは貝瀬君で、30分ほど前に通過したとのことだった。ということは30分ほどの間に10名近くの選手が走っていることになる。上位の選手にも疲れが見えるそうだ。ここからゴールまで45kmある。まだまだ勝負は分からない。

第6エイドの黒姫山登山道入り口までは乙見湖から黒姫山の西側を目指して進み、黒姫山の西登山道へと進んでいく。西登山道では、スタッフとして参加している仲間に出会い、元気をもらった。残り40km弱だが、この辺りから自分のリズムで走れるようになっていた。林道の長い下り坂で前の選手が遥か遠くにちらりと見える気がした。第6エイドでは「レモンりんご」なるものが用意されていた。カットしたリンゴにレモン果汁をかけたものだったが、これが疲れた体に沁み渡る。実においしかった。
第7エイドまでは戸隠神社奥社参道など、戸隠のメインエリアを進んでゆく。ゆるやかなアップダウンがあるものの、いわゆる「走れる」区間だ。このころになると所々でスピードを上げて走れるようになっていた。第7エイドの鏡池を過ぎると、第8エイドの戸隠スキー場へと進んでいく。この道の途中で応援している人から「先頭と30分くらいの差で前とは6〜7分くらいの差」だと教えてもらう。思ったより先頭との差は開いていない。また、「この先の瑪瑙山がポイントで、毎年順位変動があるからがんばって!」と声をかけていただく。この辺りからラストスパートに向けて気合が入る。
第8エイドの戸隠スキー場でそばを少し食べ、瑪瑙山へと挑む。ここでスーパーフィートの水口さんが応援してくれ、追撃へのスイッチが入る。ここから先のトレイルは6月に出場した戸隠マウンテントレイルと同じコース。その時のことを思い出し、自然とペースが上がる。ここから完全に追撃態勢に入った。上り坂でも心拍数を上げて走る。なかなか前は見えないが、必ず追いつくと信じて走り続ける。長い上り坂の上の方に選手の姿がちらりと見えた。登山道を抜け、ゲレンデに出る頃、目の前に選手の姿が現れた。相馬選手だった。相馬選手をかわし、さらに前方の選手を目指していく。必ず追いつけるはずだ。瑪瑙山山頂を過ぎ、下りのトレイルに入ったところでもペースを緩めることなく、前を追った。下りのトレイルも、まるで20kmのレースをするようなペースで走った。下りが終わり、登り返し始める頃、やや前方に選手の姿を確認した。必ず捉えられると確信した。一気に距離を詰めることはしなかったが、徐々にその距離は詰まっていった。前方の選手はバテている様子ではなかったが、ここは勝負どころ。登山道最後の下り坂に入ったところでペースを上げ、一気に抜き去った。
そのままの速いペースで登山道を下ると、いよいよ林道に出た。ここで水を補給。残りはゴールまで約7kmの林道となる。
2kmほど進んだあたりだっただろうか。突然隣を走っていた山室が「痛てっ!」と声をあげた。蜂に刺されたらしい。山室はすぐにポインズンリムーバーで処置し、レースを中止した。これで残り約5kmを一人で走ることになってしまった。
この後、後ろからクマよけ鈴の音が近づいてきた。先ほどかわした選手が迫ってくる。自分もペースを上げて逃げるが、鈴の音はだんだん大きくなってくる。そしてついに捉えられ、抜き去られてしまった。後で聞いたところ、フルマラソンで2時間25分ほどの記録を持っていると聞き、納得した。
あとわずかでゴールというところで、貝瀬君がコース脇に横たわっていた。聞くと痙攣とのこと。レースは最後の最後まで何があるか分からない。思わぬ形で順位を一つ上げ、7位でフィニッシュの瞬間を迎えた。
目標であった明るいうちにゴールすることが達成できた。また、一つの目安としていた12時間を切り、11時間台でゴールできたことは自分にとって大きな収穫となった。6位までが入賞ということを考えると、7位という結果は少々悔しい気もするが、初めての110kmということを考えると、満足のいく結果だった。

<反省、考察>
今回、レース前半に苦しい場面が訪れた。そこを乗り越え、後半は非常によく体が動いた。110kmのレースとはいえ、前半から軽快に走るために、ウォーミングアップをしっかり行った方が良いと感じた。今回はストレッチのみで出走したが、スタート直後のペースに対応しきれず、体に負担がかかってしまったように思う。始めからある程度の速さで走ることを想定しておけば、さらに上位でレースを進め、後半勝負できるようなレース展開ができるのではないかと考えている。