〜7.5km スプリント〜

urakov2006-03-03

儀式

 スキーのレースでもロードレースでも、私が試合前にほとんど必ずすることがある。始めたのは3,4年前からだろうか。それはチタンテープを体に貼ることである。「テープを貼る」という行為は私にとって、テープの効果を期待するだけではない目的がある。その目的とは、普段とは違うことを大会前にだけ行うことによって、心と体を呼び覚ますことである。つまり、『気合を入れる』ようなものだ。心と体が大会モードに入っていく。

レース前にすべきこと

スキーでのレースにおいてレース前にすべきことは、使用するスキーを決定することである。大抵は、レース当日の気象条件や雪の状態を予測し、ワックスを決定する。さらに、いくつかの条件に備え、スキーを2〜3台に分けて違うワックスを塗っておくのが普通だ。そして、決定したスキーに最後の仕上げをする。ここまでやってからウォーミングアップに向かうのである。 
しかし、スキーアーチェリー競技はこれに加え弓具の調整がある。スタート前に45分間、アーチェリーの調子を確認する時間が設けられている(ゼロイングという)。ここでサイト(照準機)をあわせる作業をする。また、試合で使用するターゲットを射って、不都合がないか確認する作業をする。とにかくスキーアーチェリーは、スキー競技に加えて、やらなければいけないことが多い。弓具検査、スキーマーキングもある。
選手としてはできるだけウォーミングアップに時間を使いたいので、どれかを省く必要が出てくる。選手だけで参加する大会であれば、仕上げるスキーを1台にしてスキーを選ぶ作業をカットしていただろう。しかし今回は違う。私たちが大会会場に行く前にMARUさんがスキーテストを済ませてくれ、最後の仕上げもしてくれた。私たちはMARUさんのおかげでウォーミングアップに集中することができた。また、試合前に余計なエネルギーを使わずに済んだ。そして、結果的に、スキーも最高の滑りをみせた。

5位!

この日のコースコンディションは前日の雪と地吹雪で、コースの上に雪が残るコンディション。ここのコースはスノーモービルで木のそりを引っ張って整備してあるだけなので、雪が固まらない。ふかふか雪のコンディションだ。全体的に参加者全員のスキーの滑りが遅かったので、今日の競技に関してはアーチェリーよりもスキーの占める割合が大きいように思われた。そんなコース状況でもがく(不用意にピッチを上げる)ことは、体力の消耗につながるわりに、速く滑ることができない。正しいフォームを心がけ、一歩一歩を確実に滑ることが必要である。
このように、自分のペースで滑っていると、2kmも滑らないうちに、30秒前にスタートした選手を捉えることができた。スキーは滑っている。

そうこうしているうちに会場に戻ってきた。1回目のシューティング。シューティングレンジに入る200mほど前から力を抜き、呼吸を整えた。ここで息を荒らして数秒を稼ぐより、呼吸を整えて確実にアーチェリーを成功させることが良い結果に結びつく。冷静に、のびのびと射った矢は次々とターゲットに吸い込まれ、なんとペナルティー0。
後でビデオを見ると、ひどい射ち方(リリース時に引き手が膨れていた)だった。あれでよく当たったよなぁ。しかし、当たればいいんです!結果がすべてですから。

2週目になると、まわりに選手がいない。自分でも良いポジションを滑っていることが分かった。私より1分30秒くらい前にスタートしたデイビッド(アメリカ)も私のすぐ後ろを走っていた。
気持ちよく2週目を終え、2回目のシューティング。1射目をヒット。2射目、的は落ちなかったが、当たっていたようだ。自分では当たったかどうか分からなかったが、後ろで見ていた日本のコーチが「ヒット!」とアピールしてくれた。後の2本はハズレ。コーチ陣はペナルティーを「TWO!TWO!」ともうアピール。しかし、係員は3本の指を立てた(ペナルティー3を意味する)。私は「わかったよ!」と叫び、ペナルティーコースを3周。それでもまだいい位置にいることに変わりはない。
8本射って5本ヒット。ペナルティー3。スプリント競技で私がここまでヒットできたのは過去にない。一年前の自分に比べれば上出来じゃないか!

ペナルティーを終えると、3週目のデイビッドとロシア選手と一緒になった(この選手がこの日の優勝者だった)。彼らはペナルティー0だったようで、ペナルティーを3周走った私よりも勢いがあった。私は2人の後ろにつけた。彼らの後ろで少し滑ると、私の体力も回復してきた(スキーでは後ろについて滑ったほうが有利)。上り坂でロシア選手とデイビッドの間に差がつき始めたので、デイビッドにバンフライ(声をかけてコースを譲ってもらう)をかけた。この時点で私はロシア選手に1分30秒負けていた。最終周はゴールに飛び込むだけなのでフルアタックだ(他の周はリラックスして滑っている)。何度か前に出ようと試みるが、相手も手ごわい。コース幅も狭いので、前に出ることができない。しかし、私が彼の前に出たとしても、彼はぴったりと私にくっついてきただろう。それほど彼のスキー力は私と同じくらいに強いと感じた。

・ゴール直前、前がロシア人選手。後ろが私。



結局、彼に引っ張られるように、ほとんど差がなくフィニッシュ。

今回はクロスカントリーのワールドカップ同様、足首に計測気をつけていたので、全力でゴールラインに足を伸ばした。結果、私は5位。ロシアの彼は1位。
私にとってシングル入りは初めての経験。しかも私が出場した中では過去最大の人数が参加しているこの大会で。満射(1回のシューティングですべての的をヒットすること)も経験することができて、私は満足だった。

5位→2位!

 ゴール後、私の2射目のヒット数について、日本のコーチ陣が抗議してくれた。幸いFITA(国際アーチェリー連盟)の役員もその場で見てくれていて、私の2本ヒットを証明してくれたので、これが認められるに時間はかからなかった。その結果、わたしのゴールタイムから25秒が差し引かれた(どういう計算から出た25秒かはわからないが)。私は5位から2位に上がった。表彰台である。今回の目標に掲げた表彰台。信じられない。
 それにしても、この25秒はチームワークで勝ち取った25秒といえる。前日のミーティングで、試合結果に対する抗議は協議終了後15分以内だということを日本チーム全員が確認していたし、リザルトが出るのも最終走者のフィニッシュ後10分だということも確認していた。このおかげで、スムーズに抗議することができた。それから、コーチ陣が日本選手達がシューティングを行う的をある程度決めておいたのが良かった。また、チームリーダーズミーティングでターゲットについて各国からクレームがついていた(当たっても的が落ちない)ので、抗議もしやすかった。このように、みんなで勝ち取った25秒だった。

順位確定。5位から2位へ。